• 2018.07.14 Sat
  • 芸術祭のみどころ・歩き方
  • 礎窯 2018 ONE MORE CUP STORY

インタビュー|「ナデガタさんたちが種を蒔いてくれた」

水と土の芸術祭2012参加作品「ONE CUP STORY」(ナデガタインスタントパーティー)をサポートした市民が中心となり、作家と一緒につくった陶芸窯と、制作会場となっていた旧礎保育園(新潟市中央区)を維持・活用するため活動を続けてきた。2013年から続けている市民プロジェクトは、ここを活動拠点とすることで建物を保存し、懐かしさの漂う木造の園舎を過疎高齢化が進む地域の拠り所にしていくための模索でもあった。

私に起こった変化は誰にでも起きる

2012年春、礎窯サポーターズ代表の下山義博さんは友人に誘われ、この3月に閉園したしたばかりの礎保育園で開かれた「餃子とピザのパーティー」を訪れた。娘が礎保育園の卒園生で、住まいも近かった。これが下山さんの、水と土の芸術祭と参加作家・ナデガタインスタントパーティーとの出会いだった。

「びっくりしてしまったんです。子どもからお年寄りまで、ごく自然に、一緒に楽しんでいた。それは昔の地域コミュニティのようだった」と下山さん。作家がそこに入ったことで生まれた関係、空間だと理解し、手伝えることがあれば手伝いたいと申し出た。

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「アートに関心はなかったし、美術館は敷居の高いところだと思っていた」と下山さんは言う。娘が卒園した保育園であっても、現代アート制作のボランティアを募られたら訪ねはしなかったろうが、なにせ餃子パーティーだった。

作家は旧礎保育園でさまざまなことを仕掛け、訪れる人たちを巻き込んでいったという。現在サポーターズが活用している礎窯は、そのうちの一つに過ぎない。あるときは参加者に台本を渡して即席で芝居を演じさせ、それを撮影。編集して芸術祭期間中流し続けたりもした。窯をつくるにしても、パーティーをやるにしても、そこには多彩な「仕事」があり、参加した年齢も性別もバラバラな不特定多数の人が「やれる仕事」が見いだせる。誰もが自分の役割と居場所を持つことで、楽しんでそこに参加した。下山さんが「昔のコミュニティのよう」と表現したのは、このことだった。

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「遊びに来た子どもたちが本当に楽しんでいたし、私も楽しかった。こういうのもアートなんだなと思いました。アートを敷居が高いと思っていた自分に起きた変化は、誰にでも起きるはずです。子どもたちが楽しむ姿を見て、喜んで、子どもたちにこんな場を作ってやりたい、そのために何かしたいという思いは、誰にでもあるんじゃないでしょうか」。そして芸術祭終了後、作家が去った後で礎窯サポーターズが立ち上がった。

礎保育園の建物を残したい

旧礎保育園は、半世紀前にはどこにでもあった木造の園舎。手洗い場は、大人は身をかがめなければ使えない。新潟市の所有で、市民プロジェクトのたびに礎窯サポーターズが借り受け、普段は止められている水道・電気を開いて使用料を払うのはサポーターズの事業費からだ。

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礎窯サポーターズの参加者には、それぞれに思いや目的があるが、下山さんは「礎保育園の建物を借り受けるかして、この建物で地域コミュニティが作れないか」と考えており、他の参加者にもある程度共通した願いだった。「まずは実績をつくって『任せてもいいよ』というところへ持って行こう」と、活動の中で賃料の支払いや運営費を捻出する方策が幾度も検討されたが、それぞれに仕事と日常を持つメンバー同士では、毎年市民プロジェクトを行っていくことさえ決して楽ではない。

地域では2015年に4小学校が閉校して新設の日和山小学校に統合され、中学校も2校が統合された。旧礎保育園の直近にあった礎小学校は1998年に閉校し、その場所にはクロスパルにいがたが建っている。旧二葉中学校は2018年芸術創造村・国際青少年センターにリニューアルされ、今回の芸術祭のサテライト会場になる。地域に廃校がどっと増え、しかし一部は公共空間として活用されている。そうした中で礎保育園園舎は、既にかなり老朽化が進み、耐震補強もされていない。「先が見えないから、あるいはここまでやれたんだからと満足して去って行った人もいます。いろいろなところに相談にも行っていますが、私の力不足で」と下山さんは言う。

ここで遊んだ子どもたちの未来

礎窯サポーターズの今年の市民プロジェクトは、5月から介護施設や古町どんどんなどで出張作陶体験を実施。水と土の芸術祭2018開幕後は会期中13回の作陶体験を行い、体験した人たちの作品を、礎窯に火入れして焼き上げる。窯は薪で焚くため、春から薪集めを始めた。冬の積雪で防風林の松がかなり折れ、倒した木をカットして自分たちで持って行く条件で譲り受けた。会期前に週末に集まれるメンバーで草刈りや園舎の修繕など、やることは山ほどある。

大人も子どももお年寄りも、同じ場所でそれぞれの役割を果たし、互いに認められ、ともに楽しく過ごす。過疎高齢化が進む地域で、そうした場を作り出したいという思いと活動を、下山さんは「ナデガタさんが蒔いてくれた種」だと言い、育てるのは地域に暮らす自分たちだと考えている。

そしてできるなら、この場所で遊んだ子どもたちが、自分がかつてそうだったように現代アートを縁のないものと受け止めるのではなく「こういうのもアートなんだ!」と楽しみ「大人になって水と土の芸術祭に作家として参加するようになったらうれしいですね。それくらい長いスパンで考えられたらいい」と話していた。

礎窯 2018 ONE MORE CUP STORY
礎窯 2018 ONE MORE CUP STORY
旧礎保育園を地域に開かれた空間として開放し、作陶体験や窯焚き、お茶会、展覧会など各種イベントを開催します。作家と市民の交流を広く行い、陶芸活動を通じて、市民力の底上げと新潟の人材を育てます。

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