• 2018.07.12 Thu
  • 芸術祭のみどころ・歩き方
  • 塩田 純一

インタビュー|水と土の芸術祭2018アートプロジェクト 新潟から、想像力の橋を架ける

この春新潟市美術館館長を退任した、水と土の芸術祭2018のアート・ディレクター塩田純一氏に、各会場のみどころ、今回のコンセプトである「メガ・ブリッジ―つなぐ新潟、日本に世界に―」との関わりを聞きました。

リニューアルした「大かま」は力業の作品揃い

―まずメイン会場である万代島多目的広場から。ここでは8人の作家が発表します。

撮影:中村脩

かつて水産物の荷さばき場として使われていた新潟市漁協の万代島旧水揚場を、耐震補強を含むリニューアルした会場です。以前の姿を懐かしむ方も少なくはありませんが、遮るものをなくして一つの巨大空間になったことは大きな魅力で、この空間を活かし、割とハードで大がかりな作品が入ります。

松井さんは「内」と「外」を表現される方ですが、今回は松井紫朗さんの作品の中に入って進んでいくと、別の作家の作品に出会うという動線をつくりました。メイン会場は胎内巡りのようになります。

―水と土の芸術祭は今回、水と土を敷衍して世界を構成する「地・水・火・風」の四元素がテーマになっていますが?

メイン会場がまさに四元素を表現しています。伊藤公象さんは「地」、塩田さんは「水」、遠藤さんは「火」、大西さんは「風」など、四元素と対話し、人間との関係を象徴的に示してくれている。
「場」として言えば、信濃川河口の港湾エリアにあって、みなとまち新潟にとっても、水と土の芸術祭にとっても根幹に関わる重要な場所です。周囲には造船所があって漁船も係留されており、潮の匂いも漂ってきます。まずはここを訪れてほしいですね。

 

作家が滞在して作品を作り上げるゆいぽーと

―メイン会場に次いで作家数が多いのは、新潟市芸術創造村・国際青少年センターゆいぽーとですね。

sate

ここは若手作家を中心に集めて、滞在しながら作品を作り上げてもらいました。特に占部史人さん伊藤遠平さんは3ヶ月の滞在で、この間3回ずつワークショップを開催します。作家と直にコミュニケーションができる場として足を運んでほしい。

それからゆいぽーとには2014年に新潟市美術館で開催した「ニイガタ・クリエーション」展に参加した阪田清子さん(上越市出身)、冨井大裕さん(新潟市出身)や、現在新潟市でアール・ブリュットの支援活動をしている角地智史さんも参加します。冨井さんはほぼ「地元」と言っていい、子どもの頃から慣れ親しんだ場所での発表になる。彼らの活躍が、新潟に波を起こせたらと願っています。

―ゆいぽーとが海岸線に最も近い砂丘の上に位置しており、市街に向かって下って行く途中に会場が点在しています。

砂丘沿いは江戸時代から町人たちの浜遊び、避暑の場でした。だから明治大正には富豪が迎賓館として建てた別邸が残っている。明治大正の和風建築の中で見る現代美術、そのコラボレーションを楽しむとともに、みなとまち新潟の奥行きを感じ取ってほしいですね。

環日本海ということ。橋を架けるということ。

NSG美術館は1975年開館のモダニズム建築で、新潟市美術館と並んで砂丘エリアでは「新しい」建物ですが。

NSG

ここはちょっと趣向が違いまして、環日本海をテーマにしています。日本海は大陸と日本列島がぐるりと囲み、地図で見れば地中海のようなんですね。かつては盛んに交流があったのに、いまは不幸な断絶の海。日本海に面した新潟にとって、環日本海は避けては通れないテーマなんです。

新潟は1950年代末以降、北朝鮮への帰還船が出た港。そして在日の詩人金時鐘(キム・シジョン)渾身の長編詩「新潟」は祖国の分断の歴史を踏まえたもの。想像力の橋を架けるというのは、この詩に触発された言葉です。
ここでは梶井照陰さん潘逸舟さん(中国/日本)、セルゲイ・ヴァセンキンさん(ロシア、サハリン)、荒井経さんの、海や波をテーマにした、あるいは暗示する作品を展示します。それぞれの場所から見た日本海。これを見ながら、この海に想像力の橋を架けてほしい。

ボーダーを超えるということ。橋を架けるということ。

―水と土の新潟を象徴する海抜ゼロメートル地帯、亀田郷にある天寿園のテーマは?

tenjuen

一昨年新潟市美術館の「アナタにツナガル展」のパン人間で新潟市民におなじみの折元立身さん《STEP IN》、潘逸舟さんは大広間で流れる涙が海になるという詩的なインスタレーションの新作を発表します。山内光枝さんは済州島で海女の学校で学び、自ら海に潜り映像作品を制作する肉体派。今回は、韓国、日本の漁民を取材、海と関わる生活文化の、共通点と差異を、自分の身体を通じて表現します。

天寿園のテーマが何かと言えば、「ボーダーを超えていく」ということ。共通点、差異をどう認識していくか、どうすれば橋を架けていくことができるか。作家は既にボーダーを易々と超えていて、作品が私たちに重要な視点を与えてくれる。

―ここまで各会場や作家について伺いましたが、水と土の芸術祭全体については?

水と土の芸術祭は『新潟』という都市の名ではなく、『水と土』という普遍的なタイトルを冠しています。人類共通の普遍的なテーマを扱いながら、一方では新潟の歴史風土、ここで人々がどんな営みを紡いできたのかということが、会場と作品を巡りながら感じることができるよう場の持つ力にこだわっています。どうか、ひとり一人の想像力で、それぞれの橋を架けていただきたい。

ライター:橋本 啓子

塩田 純一
塩田 純一
Junichi Shioda 1950年東京都生まれ。78年東北大学文学部大学院修士課程美学・美術史学専攻修了。世田谷美術館、東京都現代美術館などを経て、2011-17年新潟市美術館館長。1999年ヴェネチア・ビエンナーレ日本館コミッショナー。数多くの現代美術の展覧会を手がける。

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